2007年10月27日
『秋雨競馬』
「姉ちゃん、そりゃないぜ」
朝の電車。隣に座る姉ちゃんが、鏡を手に念入りに化粧を始めた。
眉を切ったり、まつげを曲げたり、鉛筆で塗ったりと、そりゃ忙しい。
挙げ句にパタパタと頬に粉を塗る。
そのパタパタのおしろい粉が、めずらしく黒のジャケットで出陣の博打屋に降りかかる。
なんてこったね、この国は。
女が化けるのは、人目を避けてするもんじゃなかったのかい。
あれやこれや、バックの中から七つ道具がでてくる。
鏡に向かって、口を尖らせたりの七面相。
しかし、哀れなことにいじればいじるほど、顔がくずれる。
「姉ちゃん、諦めなよ」
この一言を飲み込んで、競馬場までがまんした。
雨のパドックだ。
オッズ板の裏の庭園は、一気に色付きはじめた。
雨は七難を隠す、と云うのが博打屋の持論。
パドック派泣かせである。
馬体は雨で濡れ比較しずらい。
何より傘をさしてのメモはとりずらく、新聞もびしょ濡れ。
化粧が七難を隠すのは当たり前だが、隠れぬ難もある。
雨に隠される難を見抜くのもパドック派だが、切ない作業だ。
