梶山徹夫の馬券生活 - 愁思符庵日記 -

本物の博打屋が送る競馬ファン必読の競馬ブログ

2007年11月13日

『慰霊登山』

晩秋の河口湖畔。

紅葉回廊が雨上がりに色を取り戻し、湖面に明るさが映る。

今し方、車の中で見たエリザベス女王杯の馬券をもう一度確かめ、深いため息をついた。

1,2着欄は見事にダイワスカーレット、フサイチパンドラの2頭 。

3着欄にスイープト ウショウの名がない。

調教ストライキを起こし、前走回避の気難しアネゴを嫌ってしまった。

まあ、確信犯だから諦めもつく。

午前中で職場放棄、前売りで慌てて買った馬券だから仕方ない。馬単オッズを確認していたら勝負出来た馬券だったような気がする。

まあ、そんな目先の商いより、もっと大切な旅でもあったのだから、博打屋としては納得のレース。

ダイワスカーレットは名実ともに、歴史的名牝。

レース前にその見解を表明しておいたことが、何よりの救い。

その大切な旅というのは、他ならね先日秋陽ジャンプのレース中、不慮の事故死を遂げたベストグランチャの元オーナー夫妻との慰安旅行である。

今や車椅子も頼りになった高齢の前馬主。

好きな競馬との付き合いが、この不慮の不幸で終わるのは忍びない。子息の馬を通じてまだまだ馬主としての楽しみをもってもらおうと、調教師が心を砕いた。

ファンには余り関係もなく、知る由もなかろうが、馬主と調教師の関係は、元よりビジネスではあるが、他のビジネスに比べ、パートナーとしての、深い信頼関係が求められるのだ。

昨今、競馬を取り巻く環境が変わり、馬主と調教師との人間関係も、その密度に温度差がでてきてはいるが、馬を走らす為には多くの人の手に委ねることがあり、一人金を払う馬主だけの思惟が罷り通るものでもない。

意思疎通の悪さで、相互に距離を置かざるをえず、やがて不幸な人間関係に陥るケースを博打屋は数多く見てきた。

演じられるレースは、ファンに見せる最終章であり、その裏舞台では、様々な人間模様が垣間見られる。

馬主の気持ちと、調教師の才覚が共に結実すれば事は平穏だが、見るにそのいずれもが、自己顕示により、あらぬ方向に向かっているようだ。

そうした中で、こうした少頭数の個人馬主の趣味としての楽しみに応えようとすることは、ある意味多くを犠牲にして厩舎運営をすることにもつながる。

経営重視で、合理的厩舎運営か、趣味としての馬主のそれに応え、競馬本来の喜びを求めるか。

二者択一なんて、単純なものではないが、その二者がすでに二律背反する要素になってきていることだけはどうやら事実のようだ。

そうした環境のなかでも、博打屋は今回のような、馬主と調教師の、馬に対する愛着と、共に勝ち負けの喜怒哀楽を分かち合う人間関係の機微を知るのである。

すべての関係者に馬に対する愛情はある。

しかし、抱えるリスクが大きすぎて、相互にゆとりと言うものが失われつつあるのだろう。

馬を介在として、親子ほど歳の違う人間が、心を通わせる。

これも競馬がもつ、本来の魅力であろう。

いや、馬を走らせようとする馬主が本来もち得なければならない心の文化なのかもしれない。

「親孝行 したいときには親は無し」

夕席で調教師は心情を吐露した。

ビジネスだけに終わったら、この男の擬似親は見出だせなかったであろう。

12日は快晴の朝を迎えた。

前日車で登った富士山は、すでに冬景色。

この朝は雲一つない秋空にくっきり山頂が手に取れそうな距離。

河口湖畔の宿で、新たな気持ちの朝を迎えた。

「富士山は登らぬ馬鹿と二度登る馬鹿」と言う。

博打屋は3度目だから十分馬鹿してるが、慰霊登山は初めてだ。

これで多くの関係者の区切りとなり、一頭の馬が繋ぐ人間たちの鎮魂となったであろう。

13日、松戸競輪準決に足を運び、松山の決勝を買う。

3着写真判定を暮れ泥む競輪場で祈るように待つ。

志智なら外れ、小倉なら的中。

結果は非情。
電車賃にもならず家路を急ぐ博打屋である。

14日は船橋の平和賞か松戸の決勝か。

前者ならモエレジンダイコ。

川崎ローレル賞で証明の道営転入馬のハイレベル。この馬にもその力が。相手はシャンクス。

後者に行けば金古将人。

さて、しばらくは2車単、2連単で攻めるかな。

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2007年11月13日 19:46に投稿された記事です。

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梶山徹夫プロフィール

梶山徹夫

1949年広島生まれ、中央大学文学部国文科卒。コピーライターを皮切りに、広告制作、音楽事務所経営、ルポライター、競馬雑誌編集長を経てフリーに。全国の競馬場に出向き、競馬に関わるエッセーを雑誌等に寄稿。著書に「馬券で喰ってどこが悪い」等。

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