『愁思符庵』大晦日
庭の枯草を燃やし、玄関前の大壺に、松、梅、猫柳、木瓜を無造作に放り込み、最後に千両をさしこんで、愁思符庵の新年飾りは完了した。
昨日までと一変、町中の人出が俄然少ない。
堅気衆は30日までに雑多なことは終え、大晦日はあたふたしないもののようだ。
過去最高の成田からの日本脱出なんてニュースも他人事。
故郷は遠きにありておもふもの。
そして哀しく歌うもの。
こう決め込んで大晦日を迎えるようになって、幾年月であろうか。
真っ赤な千両の実は、おそらく元旦には鳥にすべて食べられていることであろう。
小出しに差し替えてやらねば、縁起の赤い実が三が日もたない。
鳥たちへの愁思符庵からのお年玉。
万両より千両を好むのは、欲のないことだ。確かに実は千両が柔らかそう。
静かな町中と思って多摩川競艇場に最後の商いに出向くと、いるわいるわ年末難民。
家に置いてもらえない症候群のオヤジで溢れ返っている。
大井の東京2歳優駿牝馬のディーズエトワールは電話投票で参加だが、最後の奉公をしてくれるはず。
博打屋は例年通り、多摩川競艇場のガラス張りスタンドで、西日に照らされながら輝く水面をながめている。
いつもの過ごし方。
最後の商いは孤独に勤めたい。
優勝戦に乗った紅一点、濱村美鹿子。
47キロの舟は輝く水面を先頭で走るであろう。
中野次郎、田中豪を引きつれて。
黄昏の多摩川を後に博打屋は山籠りに入る。
