『遅延賀状』
成人式を迎えようかと云うこの期に及んで、博打屋はようやく賀状書きに座した。
日銭商いの出稼ぎ稼業は暇そうでそうでもない。
ひとえに年末年始にかけての博打場のビッグイベントが、愁思符庵滞在を許さない。
まあ、怠慢といえばそれまでのことなのだが。
「ねこを噛む鼠にあらず」
の鼠の文字をつたない墨画にし伏せたのだが、果たして意は通じたか。
ついでに何を今頃、と思われるので弁解もしておいた。
「博打屋は一歩おくれて世を渡り」
とにかく肩の荷が下りた。
7日8日 と金杯出費の補填に立川競輪鳳凰賞準決、決勝に出向いた。
一言主神社の不義理は依然と尾を引き、馬券も車券も微妙にずれる。
調べてみるとこの神は、一言の願いももらさず言行一致、叶えてくれるのだそうな。
そんな神なら是が非でもお参りしとけばよかったが、どうせ幾らも差し上げられない賽銭で、そこまで望んじゃ悪かろう。
10日、築地の病院に知人を見舞い、ひとり高層階の談話室から東京湾の夕景を眺めた。
生気を失いつつある病人にかける言葉もない。
何かを言おうとするその声も力ない。
退室してしばらく談話室で一人過ごした。
「金杯やられちゃったよ」
博打屋の言葉に俄かに反応。
競馬と聞くと血がさわぐのだろう。
その世界で飯を食った男らしく。
病と闘う知人に応えるためにも、博打屋は馬券でもやもやを晴らしたい。
この日手術の別知人の様子見に病院を訪ね無事を確認、一安心。
博打屋は曲がりなりにも健康でいることの有り難さを感謝している。
「博打屋は一歩おくれて病を得」
諸般の事情でこうなるわけにはいかない境遇なのだから。
